(11)PR(プルーフリライティング)ガイド−意味のうえから見た整文(修文)
<整文(修文)の通則>
 話し言葉は伝わり方がイメージ的になります。一方、書き言葉は一語一語の意味・ニュアンスなどが正確に受け止められ、論理的な解釈が行われます。そこで、文字にした場合、聞くときと受け止め方が違ってきます。
 例えば「部長、何とか、あの会社と契約が取れました」という話は耳から聞く限り、疑問を感じることはありませんが、文字にしてじっくり見ると、不完全な文章であることに気が付きます。これは話し言葉と書き言葉が不照応であることによるものです。
 意味の面から、このように文字化したときにコミュニケーションの成立を円滑にするための処理が必要になってきます。この分野の処理技術としては次のようなものがあります。

(1)言い直し
    〜単純な場合、言い直しをしたほうだけを書く
(2)言い誤り
    〜言い誤りはその重大さの程度に応じて直す
(3)意味不明
    〜意味が分からない場合、その旨が分かるように注釈を付ける
(4)同音語
    〜意味を考えて妥当な表記を決める
(5)類音語
    〜よく似た音の言葉を前後関係から最適の言葉に決定する
(6)文脈の乱れ
    〜矛盾しないように文を細かく完結させたり、乱れを直す
(7)方言
    〜反訳原稿の使用目的に応じて方言処理を行う
(8)私語
    〜意味のない独り言は削除する
(9)字の説明
    〜文字の説明は、特に意味のない場合削除する
(1)言い直し
 話し言葉は不適切な語彙を使用することがあり、誤用に気付いて言い直すこと がよくあります。そのような単純な言い間違い、言葉の誤用ですぐに言い直した場合には言い直したほうだけを書さます。
 しかし、たとえ言い直しても、差別語や重大な影響を持つ言葉が使われた場合 には、のちに問顧になる懸念がじゅうぶんにあるので、発言通り書く必要があります。特に議会や株主総会などではこうした配慮が必要になります。
 ただ、出版などの取材用目的の座談会などで内輪の感じで行われ、対決的な環境でない場合には編集者と相談して言い直し処理を行います。

<例文>
*5百円、いや500万円
<整文(修文)>
*500万円

<例文>
*条件がなければ、条件が厳しくなければ
<整文(修文)>
*条件が厳しくなければ

<例文>
*私は、の最も伝えたいことは
<整文(修文)>
*私の最も伝えたいことは

<例文>
*そういうふうに思うので、次第であります。
<整文(修文)>
*そういうふうに思う次第であります。

<例文>
*採用を予定、内定している
<整文(修文)>
*採用を内定している


<例文>
*あれがあるのではないか、営業報告書。
<整文(修文)>
*営業報告書があるのではないか。

<例文>
*それはあそこの管轄でしょう、企画部の。
<整文(修文)>
*それは企画部の管轄でしょう。
(2)言い誤り
 言い誤りは前項の言い直しと似ており、議会記録と講演記録、座談会記録などによって異なりますが、次のような処理法があります。

A:軽い言い誤りは正しいほうに直します。ただし、それが確信の持てる場合にします。

<例文>
*92年の西独経済は厳しい。
<整文(修文)>
*92年のドイツの経済は厳しい。

B:間違いを発見したが判断がつかない場合、本部に尋ねます。本部担当者がお客様に確認してどうするかお知らせします。
  この場合に一番問題になるのは「差別的発言」で、社会的には使ってはいけない言葉が使われた場合、悪意でなく軽微な認識違いであれば直してもよいが、何事も独断は避けるほうが賢明です。

  マスコミ各社によって取り扱いが異なりますし、また出版される書籍・雑誌によっても編集方針が異なります。プルーフリライターとしては、構成依頼書にメモを添付するといったかたちで本部に情報提供をしてください。

「言い誤り」については、一般的には、外国語において、
*シュミレーション(シミュレーション)
*ベット(ベッド)
*人間ドッグ(人間ドック)
など、また日本語においても、
*前半(ぜんぱん→ぜんはん)
*疾病(しつびょう→しっぺい)
*花卉(かべん→かき)
*進捗(しんしょう→しんちょく)
*伝播(でんぱん→でんぱ)
*代替(だいがえ→だいたい)
*敷設(しせつ→ふせつ)
*抜本(ばつぼん→ばっぽん)
*遂行(ついこう→すいこう)
*舌鼓(したつづみ→したづつみ)
*言質(げんしち→げんち)
など、いずれもさまざまなものがあります。

 助詞などの誤りは、必要に応じて整文(修文)します。

<例文>
*彼は発言した当時は、まだその問題は言われていなかった。
<整文(修文)>
*彼が発言した当時は、まだその問題は言われていなかった。

<例文>
*これについても同様のことが申し上げることができるのです。
<整文(修文)>
*これについても同様のことを申し上げることができるのです。

<例文>
*世界経済は今後における問題は、
<整文(修文)>
*世界経済の今後における問題は、

<例文>
*この体制が果たして万全に期されているか、
<整文(修文)>
*この体制が果たして万全を期されているか、

<例文>
*諸先輩を他山の石としながら、私も頑張って参りたいと思います。
<整文(修文)>
*諸先輩を模範としながら、私も頑張って参りたいと思います。
 〜「つまらないものでも役に立つ」の意味で、他人に用いると失礼なかたち
   になります。

 同様に、「先生に参加していただけたことは枯れ木も山のにぎわいでございます」は、自分が参加したことを謙遜して言う言葉なので、他人に用いると失礼なかたちになります。
 「やっぱりカエルの子はカエルで、ご立派になられたものでございますは、「しょせんはカエル」の意味合いが強く、他人に用いると失礼になります。
 「私には役不足ですが、一生懸命やっていきたいと考えております」は、「その役では物足りない」を逆の使い方をしたため、かえって傲慢に感じられてしまいます。

(3)意味不明
 録音テープでは難聴部分でも、臨席経験がある速記の場合、環境記憶等で話を再現することができることが多いので、速記録作成は現場での符号化作業が不可欠です。しかし、速記者が知らない言葉は、伝音環境不良等が重なると正確に認識することができないものです。

 これがリライトグラフィーになると、格段に難しくなります。そのため、録音従事者が克明なキーワードメモ、発言者順記録、資料等を収集しておくことが大事です。いずれにしても、長時間のものは意味不明個所は必ず生じるものと考えるべきですが、次のような五つの対応を採ることができます。


A:意味が分からない言葉で表記に自信があるとき、自分が判新した書き方をします
B:意味が分からない言葉で表記に自信がないとき、自分の判断した書き方を片仮名表記します
C:逐語性を強く要求されない場合は、文脈から判断した表記をします
D:前項と同じように逐語性を強く要求されない場合、あまり重要牲がないと思われる部分については、話の流れに差し障りがないようなら削除します
E:固有名詞など前後の言葉から推測がつきそうな場合、文献等でその言葉を探して表記しておく
(4)同音語
 音声認識がコンピューターにできるようになっても、コンピューターは意味を理解することが難しいと言われています。話の流れ、前後関係から、その音がどんな表記になるかを考えて決定できるのは人間だけが行える作業です。しかし、そのためには話の内容が完全に理解できていることが必要です。
 リライターは実務上で専門語彙について幅広い経験を積んでベテランになっていきますので、大抵の場合、正確な同音語処理ができるものです。
一方、ワープロ・パソコンが普及した割には、リライターが行う文節入力に適した辞書や幅広い用語を収録した辞書、話し言葉辞書等が不十分なので、購入した時点でのワープロ・パソコンでは同音語の変換ミスが非常に多くあります。そこで、リライターは業務用の辞書作りを自分自身で行う必要があります。

 同音語の処理については次の4方法があります。

A:文脈から好ましい言葉を選択する

<例文>
*母子福祉の観点から「寡婦」対策が採られると共に、一方「寡夫」対策も採られるようになってきた。
(かぎ括弧内が同音語)

B:方言等で起こりがちな音の混同は、意味を考えて正しい表記をする

<例文>
*下水汚泥を「飼料」として使う場合
<整文(修文)>
*下水汚泥を「肥料」として使う場合
    
C:同音同義語の場合、採用している基準に従う

<例文>
*「超伝導」と「超電等」
〔超伝導は物理用語、超電尋は電気用語〕

D:同音語の判断がつかない同音語は一応の表記を行います

<例文>
*コーオンの部屋で
<整文(修文)>
*(イ)コーオンの部屋で
*(ロ)高温の部屋で
*(ハ)恒温の部屋で

<例文>
*「経常利益」は滅りましたが、内部留保を取り崩して「計上利益」を前期並みに確保、配当を維持でさました。

(5)類音語
 よく似た昔は発音不良、周囲の環境不良等によって、聞き分けが難しいことが多くあります。そこで、重要な会議などにおいては、臨席速記の現場取材が必要ですが、照合のために取った録音テープの聞き取りでも厳密な聞き分け経験を積むことが望まれます。
 テープ聴取の場合、静かな環境で、イコライザー付きのカセットデッキを使って、妨げになっている周波数を消していき、目的の 音声を突き止める方法もあります。
(類音語の例)
現代・現在、移出・輸出、 1日に千人・1日2千人、肥料・飼料・費用、就業人口・収容人口、職人・職員、高齢化・これから、論理・論議、老齢化・老練化、役人・役員、みそ・ミス、報告・方向、放流・合流、文化庁・部課長、不親切・親切、発酵屋・箱屋、伝える・ 使える、第一に・大事に、登呂の遺跡・唐の遺跡、第1回・代議会、学園・学院、流出・流失、引用・援用、推計・推定、方式・公式、文章・文書、解決・可決、昨年度・各年度、読み・呼び、内容・概要、平常・正常、陳謝・深謝、非常・異常、県内・県外、期間・時間、養育・教育、開校・廃校、計画・契約、軍事・軍備、財政上・財政事情、明確・明白、再燃する・再現する、調査・操作、利益・受益、利用・需要、画一・確実、採集・採取、美術・技術、

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